貴族たちに追われていたガロダート一味を、匿いたいという協力者が現れる。
彼はガロダートが発表した論文を見て感銘を受けたのだという。

「意外っすね、兄貴がそんなことしてたなんて」
「はっ。ただの暇潰しだよ」

嘘だ。本当は、総長に言われて努力を重ねてきたのだ。
最初は四則演算すら覚束無かったし、シャドバの会社名すら知らない有様だった。
今では複雑なリーサルを楽しめるし、パズルを作ることもある。クラシックからオーダーシフトまでのパックを諳んじてすべてのレジェを挙げられる。
頭の中で特殊ルールを決め、それに沿った構築を10デッキ以上作って一人でトーナメントしたりもする。youtubeでそこそこ再生数を稼いでいる。


総長と袂を分かつ前だったなら、自慢げに笑っただろう。「結構楽しいんだぜ。それに、学問は大事だって総長も言ってたしな」って。

――今はもう違う。総長はガロダートたちを裏切って運営と寝たんだ。

「で、会いにいくんですかい? その協力者に」
「怪しいぜ。信用できねえ」
「俺が一人で行ってきますよ! 特攻隊長っすから!」

「いや……」

理由はいくつもある。

自分の尻尾をつかんでいる奴を放置できないから。
特攻隊長に交渉事は向いていないから。
そいつの宿を最後に、雲隠れしてみせた逃亡者が何人か確認できたから。

だが一番の理由は。

会ってみたい。ガロダートは思う。
インターネットの片隅、おんJwikiの個別カードページに、折り畳みで追記したクソ長論文。
更新日時をスキップ(最近更新したページや検索の結果に反映されなくなります)してあるので、ほとんど誰も気づいていないはずのアレを
いったいどんな奴が見つけて真面目に読んだのか。どうしても気になってしまった。



   ◆



人気の途絶えた僻地、過疎テーマ・宴楽ビショップ神社。汚れた社殿の軒下に横たわりながら
ガロダートは件の協力者、真理の大文豪・ユキシマと話していた。

「ガロ氏のデモコン理論は極めて優れたものだ。世界有数のデモンコンタクダー使い、と謂へる」
「そうかよ」

少し話しただけでも分かる。このユキシマという男は、ゥマ貴族どもとは繋がっていない。

血統主義のクソどもは、どんなに繕っても嫌味が滲んでくる。
目の前の相手に気を遣うことはできても、「カードの大半はpick用に調整されたゴミ」「構築で使えるのは一部だけ」という差別意識は消せないのだ。
だが、こいつにはそういう嫌味が無かった。

同期の【ハンドレスゥマ】などをディスる言葉も、対等な相手として認めた上でのもの。
そもそもユキシマが収録されたEOPは、ゥマの全カードが構築級だったという。

「それでガロ氏、うちの宿へいらっしゃいませぬか?」
「……いいぜ」

総長に似ているような気がした。
胸元の黒い羽飾りが、金色のワンポイントが、青白い不健康な顔が、遠く彼方に思いを馳せるようなぼんやりした瞳が。
そして、確実に嘘をついている素振りが。

似ているような気がしたから、もっと話したくなった。

そういえば、総長がいた頃のゥマは、手札をバフして戦ってたとか聞いたことがあったか。

「けど、オレの仲間は乱暴だぜ。高級旅館なんてガラじゃねえが」
「構いませぬ。あなたの物語を彩る面々なれば、ぜひお会いしてみたい」



   ◆



宴楽ウィッチホテルでの日々は楽しかった。

特攻隊長は、こんなに長い廊下、こんなに広い部屋がある家に住むのは初めてだと言って毎日はしゃいでいる。
へそ出し変態ファッションでも寒くない室温なんだから、ゆっくりしていればいいものを。いつも鎖をジャラジャラ鳴らして走り回り、汗を流している。

防衛隊長は昭和文通ブームにハマっていき、ユキシマの文章監修のおかげでエルヴィーラちゃんという子と仲良くなれたらしい。
クロスオーバーでデートの約束まで取り付け、なんとJCGクローバー大会で予選抜けしたという。

そして副総長がファンファと進化でデッキからゥマ・フォロワーを手札に加えるたび、
ランダムな相手のフォロワー1体に1ダメージ。これをX回行う。ランダムな自分の手札のフォロワー1枚を+X/+Xする。Xは「加えたカードの枚数」であった。

金で雇った音楽ゥマ傭兵団の連中、笛吹きやビーター、ハウリングたちも、管弦の魔術師と仲良くブラッディセッションして読書のお供にハイどうぞ!している。



   ◆



だがいい加減リーサルターンだ。いつまでも遊んではいられない。

「今日でこの宿にきて8ターン目になる。そろそろはっきりさせようじゃねえか。ユキシマさん」

「はて、何のことでせうか」

「テメェは嘘をついてやがる」

相変わらず遠くを見て素知らぬ顔でいるユキシマに、ガロダートはファンファ謎3点を突き付けた。
ユキシマは曖昧な表情で、手にした本を閉じて背表紙を撫でる。
管弦でドレイン回復しながら盤面に自爆して20点エンドでハーフロック状態の今、ガロダートなど敵ではないというのか。

「俺のデモコン論文は、デモンコンダクターとは関係ねぇんだよ。俺の論文は、一部公開されたU10ゥマカードがデッキを消す話をしていたんだ。
分かんねえか? リサージェント・レジェンズが出たらデモコンはローテ落ちなんだよ」

「面白いことをおっしゃる。ガロ氏。咎人より探偵にでもなった方がよろしいのでは?
……ところで、アンリミU10ゥマといふのもありうるのでは?」

「はっ」

反論してくるユキシマを、ガロダートは鼻で笑った。

「ミルナードもサディスティックナイトもリサージェントカードだ。アンリミU10ゥマなんてありえねんだよ!」

「……! くっ」

それを聞いたユキシマは観念したのか、昼ドラ特有の崖に立って動機を話し始める展開に入った。
曰く、魂のこもった作品こそ真の文学。直前のCDBがなんかシャFコラボでフレーバー微妙だった分、
EAAカードのガロダートたちを本にしてフレーバー成分を補給したかったという。

ユキシマは、せっかくのカードストーリー編がオリシルだけで続きが出ないことを嘆き、八獄ストーリーをもっと読みたいと涙ながらに訴える。
ワールズビヨンドはやっぱり複数の世界をメタバースで再現してくれるかな、アズヴォルトワールドやってほしいよね。
宴楽ウィッチホテル・ワールドではいろんな客の経験が読める本があるんだけど、それが後々実装されるワールドの伏線になってたりするんだ。
もちろんみんなが気になっている災藤さんの透京都ワールドなんかもあるはず。災藤さんといっしょにいろんな資格に挑めるミニゲーム満載だ。

その長広舌を聞いている間に、ターン制限を告げる赤リングがガロダートに迫っていた!

宿内には特攻隊長・防衛隊長・副総長(進化後)・デモンビーターが人質に取られて盤面を4つまでロックしており、進化権はもう残っていない。ファンファ3点を入れて相手は残り17点。
だがガロダートは何度か頭の中でリーサルを確認してから言った。

「オレは4ターン目にヴァンピィちゃんから贈り物を受け取ってんだよ」
「はっ……あれはただのクリスマスプレゼントではなかったのですか……」

デモコンのターン開始自傷とガロダート自身の効果、バイオレントスクリームと、そしてけんぞくぅがあーんして4回条件が満たされる。

「舐めんなァ!」「おうよ!」
防衛隊長と副総長の誘発効果が起動してから、光明落とす常闇の駆動!
自動進化エフェクトが終わるのも待たずに特攻隊長・副総長(進化後)・デモンビーターが顔を殴り、ついでに防衛隊長も0点パンチして最後にガロダートが動く。左上のメニューボタンが消えた。

「ぶっ壊す!」

「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
なにゆえリサージェント・カードはアンリミで使えぬのですかKMRRRRRRRRRRRRRRRRR!」



   ◆



決着の後、ルームマッチ画面で「ありがとうございました」するユキシマを前に、
ガロダートは冥土の土産だと言って、自身の思い出を語ってみせた。

尊敬する総長の記憶。フレーバーに無い世界の真実。そう。

世界を今、解き明かす――次元歪曲の目玉レジェンド。自傷回数Xの祖ともいえる偉大なる大先輩。

彼の悪魔が出でれば全て、
加減乗除の演算で、遍く神秘は地に落ちる。

すなわち、血統主義を否定する平等主義者にして合理主義の化身。

だが総長は、全然環境にいない不遇期間を経て、運営と寝てバフをもらい、しかし環境には入らず失踪してしまった。

「ユキシマ。テメェは、総長と似てる気がすんだよなぁ」
「ああ、神バハだとディアボロス・アギトって、いろんな生き物の脳と魂を集めて
生体コンピューターみたいにして未来を計算させてる悪魔っていう設定になっておりまして、少々私に似ているとも謂へますね」

「いいよなぁ、ディアボロス・アギト総長……」
「エボではスルーされて存在が消えてしまいましたね」
「ビヨでもナイトメア統合されて、ゥマの微妙カードは消されそうなんだよなァ。許せねえぜ! 血統主義! 俺は貴族をぶっ潰す!」

名探偵ガロダートの冒険は続く。
ユキシマ図書館で古代シャドバについての記録を手に入れ、ディアボロス族の真相に迫る次の旅が始まろうとしている。

彼の悪魔こそ数理の王。
人の命も、天の色も、
その前では紐解かれた答えと変わる――!

いつかディアボロス・アギトがバフされても無反応だった日の真実が解き明かせると信じて。
そして、ディアボロス・プセマが見ていた「未来の環境」を切り開けると信じて。

行け、ガロダート! 縊り墜とせ、破蛇! 止まるんじゃねぇぞ。……俺がいなくなってもな。

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